一人で鮫に立ち向かうソリッドシチュエーションスリラー「ロストバケーション(2016)」の感想記事です。
序盤にネタバレ無しの感想を書きますが、それ以降はネタバレしてますので、未鑑賞の方はお気を付けください。
※ネタバレ前には「以降ネタバレあります」と書きますのでご安心を
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目次
作品情報
公開年 | 2016年 |
---|---|
原題 | The Shallows(”浅瀬”という意味) |
上映時間 | 86分 |
製作国 | アメリカ |
監督 | ジャウム・コレット=セラ |
脚本 | アンソニー・ジャスウィンスキー |
ジャンル | シチュエーションスリラー、ホラー |
主要キャスト | ブレイク・ライブリー |
配信サイト・媒体 |
市販DVD Netflix…他 ※記事公開時の情報です |
あらすじ
亡き母が教えてくれた秘密のビーチ。医学の勉強から解放されサーフィンを楽しむヒロインを突然襲う巨大なサメ。絶望的状況の中、生存へのリミットが刻一刻と迫る。
引用:Netflix
誰も名前を教えてくれない美しいビーチ。
そこで一人サーフィンを楽しむ主人公の「ナンシー」。
彼女は医学生で医療知識を携えている。
ナンシーは鮫に襲われ、足に大けがを負うもなんとか狭い岩場に上がり窮地を逃れる。
しかしそこから動くことができず、体力的にも精神的にも憔悴しきる中、生き延びる為にあらゆる手を尽くす。
【ネタバレ無し】感想
まず、「時間を無駄にしたくないから及第点を超えているかどうか知りたい」という方に伝えたいのは、「間違いなく面白い方の映画」だということ。
その辺にあるC級ホラー映画とは違いかなり計算しつくされており、中だるみすることなく確実に最後まで楽しめます。
個人的に高評価な点は、「主人公のナンシーが博識」であることです。
この手のホラー映画は、登場人物がアホでツッコミどころ満載なことも多いですが、ナンシーはかなりの天才です。
臨機応変に物事に対処していきます。
当ブログの映画考察記事では何度も書いていますが、ホラー映画は「登場人物のIQが200くらいある天才設定」くらいの方が楽しめます。
映画は何人もの大人が集まって製作されています。
だから、現場にあるあらゆるシチュエーション、ギミックを利用し、絶望的に不利な立場から逆転し生き延びる展開を期待しています。
ロストバケーションは間違いなくそこを理解しています。
「どのように生き延びるか?」
「どうやって鮫に立ち向かうか?」
それを「何もない海の上」という限られたシチュエーションで、思いつく限りのギミックを利用し、計算高くこなしていきます。
現実的に観れば「ナンシーが天才過ぎる」と思われるかもしれませんが、映画とは一つの映像コンテンツです。
とは言えナンシーはぶっ飛んだ天才というわけでもなく、限りなく現実に近い範囲で状況を打破していくので、安定したカタルシスを覚えることができます。
「TO HIGH TIDE」ってどういう意味?
僕はネットフリックスで鑑賞しました。
ネットフリックスでは、日本語吹き替え・字幕なし設定で鑑賞すると、一部の作品では英文の日本語訳が表記されません。
本作ではスマホでのメッセージなどがHUD(ヘッドアップディスプレイ)のように鑑賞者向けに表示されますが、字幕が無いせいでなんと書いてあるか読めません。
そして作中に何度も出てくるのが、「10HOURS TO HIGH TIDE」のテキストです。
「HIGH TIDE」とは、「満潮」という意味です。
つまり、「満潮まで〇時間」というカウントダウンがずっと表示されていたことになります。
僕は終盤でこの文字をGoogle翻訳で翻訳して知りました。
満潮 = 今ナンシーがいる岩場が沈んでしまう、という意味なので、「満潮まで」のカウントダウン情報は絶対に最初から知っていた方がより楽したと思います・・・。
※次項からネタバレを含みます
感想:脚本
状況が限られている中での脚本構築だったと思いますが、非常に良い出来となっています。
ロストバケーションと似たような映画では、
スキー場のリフトに取り残される「フローズン(
2010)」や、
グランドキャニオンで岩に腕を挟まれ身動きが取れなくなる「127時間(2010)」がありますが、それらと同様で、「かなりせまい範囲」で物語が進みます。
しかし、そのイベント量は尋常じゃありません。
・一人きり
・海の上(三畳くらいの岩場の上)
・敵は鮫
という限られた状況で、非常に多くのイベントを盛り込んでいます。
そしてそれらが「単なるサイドストーリー」ではなく、物語の本筋に大きく影響を与える形で関与します。
「鮫との出会い」も凄く気持ちの良いものでした。
序盤は美しいサーフィンシーンを思う存分楽しめ、そして起承転結の「起」にあたる部分で「巨大な鯨(くじら)の死骸」を発見します。
※「鯨(くじら)」「鮫(さめ)」という似たような漢字が出てきますので、読み違えないようお気を付けください。極力カタカナで書きますが、誤字があるかもなので・・・
クジラの傷口からは油が垂れ流され、そこから悪臭が漂っているようで顔をしかめるナンシー。
そして嫌な予感を察知し、その場から急いで離れようとするナンシー。
そこでサメと遭遇。
いきなり太ももに大けがを負います。
そして序盤、サーフィン中に出会った二人組の男に「岩サンゴに気を付けて」と言われた伏線通り、逃げ惑いながらも岩サンゴで怪我をします。
序盤で既にナンシーはズタボロです。
ナンシーはサメに襲われたせいでサーフボードを失いました。
泳ぎながら周りを見渡すと、
・さっきのクジラの死骸
・ブイ
・岩場
が近くにあることに気付きます。
そして一番近くにあったクジラの死骸を目指し、そこに登ります。
クジラの上というアンバランスなところではありますが、なんとかナンシーは逃げ切ります。
このように「最初から岩場に行かない」という展開だけでもヨダレもんです。
その後ナンシーは大半の時間を「岩場」で過ごしますが、最終的にはブイも活用します。
というかブイに移動してからの盛り上がり方が半端ない!
本当に、製作陣たちがアイディアをバンバン詰め込んだ感があります。(良い意味で)
そして「ブイに備え付けられている照明弾」などを使って、助けを求めたりサメと戦います。
感想:演出
演出も神がかっているように思いました。
個人的にはやはり「痛い描写」が素晴らしいです。
噛みつかれた太ももを自分で縫合するシーンは、本当に気分が悪くなるくらい痛々しいものでした。
海で岩場に叩きつけられたり「岩サンゴ」で負う擦り傷の描写など、観ていてこちらも憔悴してしまう程です。
「HUD(ヘッドアップディスプレイ)」的な演出も個人的に好きでした。
スマホでの連絡のやり取りや、腕時計で表示される「満潮までの残り時間」や「タイマー」の表示などを、鑑賞者向けに分かりやすく表示があります。
この辺はかなり作品的な演出でありリアリティーが無くなりますが、主人公がボソっと「後2時間しか無いわ」などとわざとらしいセリフを吐くよりも好感が持てます。
僕が一番燃え上がった演出は、「海に落ちた照明弾の弾を拾い上げるシーン」です。
ナンシーはブイの上で照明弾が保管された箱を開けます。
しかし開けたと同時に照明弾の弾が箱からこぼれ落ち、そのまま海に落ちます。
しかしなんとか一発は確保できたナンシー。
それで助けを呼ぼうと天に向かって発射するのですが、笑っちゃうくらい勢い無く降下していく照明弾・・・。
「ウソでしょ・・・」と絶望しながら、今度は海上にプカプカ浮かぶ3つの照明弾の弾が映し出されます。
今まで、「海の上に浮いてる何かを手繰り寄せる(たぐりよせる)」場合には、「海にサメがいる」という恐怖心を演出するのも含め、かなり時間をかけ、ハラハラさせるような作りでした。
「海の上の弾を取る」というのも、「サメに襲われるリスク」があるため、
・ナンシーが必死に水かきして手繰り寄せる
・それをサメ視点のカメラで追いかける
・ナンシーが弾を取った直後、ギリギリでサメが襲う
とかそういう演出があるのかと思ってました。
しかし、今まで何度も繰り返してきたこの演出を裏切り、このシーンだけは
・静かに水上に浮かぶ焼夷弾
・海に入ってそれをバサッと拾い上げるナンシー
と一瞬で終わりました。
このシーンには非常に燃えました。
「うんざりさ」が無いのはもちろん、ここだけスピーディーに演出することで「ナンシーの覚悟」が読み取れます。
今までナンシーは「サメから逃げ惑うだけ」だったのに対し、ここに来て戦う覚悟を決めたのです。
「照明弾を何の躊躇いもなく一瞬で拾い上げる」という演出ひとつで、その覚悟を一瞬で魅せることが出来ました。
そしてその後覚醒したナンシーは、一瞬一瞬であらゆるアイディアを閃き、サメに立ち向かい見事勝利します。
「ラストの盛り上がり」の功績はほぼ「脚本」によるものですが、演出による効果も非常に高かったと思います。
「幻覚」を思わせる演出も良かった
岩場で憔悴しきっているナンシー。
ボンヤリした意識の中、二人のサーファーがこちらに来ているのに気づきます。
しかし次の瞬間波に隠れ、彼らは見えなくなります。
そして、同じ岩場の上で身動きが取れない鳥が移されます。
「やはり幻覚か」
鑑賞者にそう思わせた直後、また彼らが現れます。
ただ単に、波に隠れ見えなかっただけなのです。
この手のシチュエーションスリラーは、主人公が憔悴しきって幻覚を見るという展開が挟まれます。
ロストバケーションも例外では無いだろうと思っていたら、まさかまさかの裏切りです。
予想を裏切られると本当に気持ちが良い!
特に「先駆者による前例ありき」の展開で、製作陣も明らかに鑑賞者を騙しにかかっています。
「幻覚だと思わせて幻覚じゃなかった」
ただそれだけなのに、映画の評価はグンと上がりました。
評価
80点
高評価です。
娯楽作品として最後まで思う存分楽しめます。
正直、上記の「感想」の項目でほとんどを書ききったので書くことが無いのですが、ホラー映画として、というか「映画」としての及第点は明らかに超えています。
もっと知名度が上がって欲しいくらいの作品です。
最後に考察を書きます。
考察
考察①「ナンシーが照明弾をサメに向かって発射後、なぜ海上が燃え上がったのか」
知らない方もいると思うので一応書いておきます。
あれはクジラの油が海の上に浮いていたからです。
「鯨油(げいゆ)」と呼ばれ、昔はろうそく原料、灯火用の燃料油、皮革用洗剤、機械用潤滑油、マーガリン など、あらゆるものに鯨油が用いられてました。
そういうわけで、クジラの死骸から垂れ流された鯨油に気付き、ナンシーは「サメに向かって」というより「鯨油を狙って」照明弾を発射したのです。
それでサメに多少のダメージを負わせることに成功しました。
果たして照明弾の温度で水の上の鯨油に引火するのか怪しいですが、「少しの火種で引火するガソリン」と同様、「火と油」は映画のお約束みたいなところもありますので、現実的に不可能だとしても許容範囲でしょう。
考察②「ナンシーはどうやってサメに勝ったの?」
ナンシーとサメの最後の死闘は、かなり分かりやすく描かれていましたが、それでも怒涛過ぎて何が起こってるか分からないという方もいたと思います。
そんな方のために一応解説。
まず、ナンシーは今自分が乗っているブイがもう持たないと気付きました。
サメが何度もブイにアタックをし、ブイを繋ぎとめている鎖が千切れたためです。
しかし、金具が壊れかけの鎖がまだ一本繋がっており、ナンシーはそれに気付きます。
するとナンシーはブイから飛び降り、そちらの鎖を握ります。
その直後、サメの攻撃に耐えられずブイと鎖は千切れ、鎖は自重で凄いスピードで海底に沈んでいきます。
それを掴んでいるナンシーも当然勢いよく沈んでいき、サメは無心でそのナンシーを追いかけます。
そして海底ギリギリのところでナンシーは脇に避け、スピードを抑えられなかったサメは単身で海底にぶつかります。
海底には鉄の棒が何本も付きだしており、サメはそれに刺さって絶命しました。
一つ気になったのが「ブイをつなぎとめている鎖の先(海底)は、あんなに鉄の棒がむき出しになり危険な状態なのか?」ということです。
調べてみると、海洋調査ブイの中には、蓄電器のようなものを海底に沈めているものもあるようです。(作中のズタボロのブイはそうは見えなかったが)
であれば、そこに海洋生物が近寄らないように少し危険な状態にしておくということも考えられます。
(ブイについて詳しく説明されているサイトが無かったため、推測です)
考察③「なぜ誰もビーチの名前を教えてくれないのか?」
「ねぇ。このビーチの名前はなんて言うの?」
↓
「じゃあ気を付けて」
・・・
「このビーチはなんて言う名前なのかしら?」
↓
「それを教えたら君を殺さなきゃならない」
とあしらわれ、ナンシーは自分がいるビーチの名前を知ることができませんでした。
そのせいで終盤、ビデオで最後の言葉を残す時も、「このビーチの名前は知らないけど」と言っています。
何故誰もビーチの名前を教えてくれないのでしょうか?
まるで島の住民たちが企んで「ナンシーをわざとサメの餌にしてる」ようにも見えますが、全力でナンシーを助ける人や、実際にサメに襲われる人もいるのでそれはあり得ません。
これは僕の想像ですが「むやみに穴場へ行くな」という教訓が含まれているからではないでしょうか。
そのビーチに名前が無いのは「穴場」だからであり、そして穴場であることには何かしらの理由があるのです。
もちろんその理由は「サメ」です。
特に「名前を教えたら君を殺さなきゃならない」と冗談めいた風に言った男性など、暗示的に「穴場スポットだから君に教えるわけにはいかない」と言っているように思えます。
考察④「それでもサーフィンは悪くないよ!」というラスト
考察するほどのことでもありませんが、本作はハッピーエンドで、ナンシーがまた海でサーフィンをするシーンをラストにエンドロールに入ります。
これは、「どんなに痛い目にあっても好きなことなら続けよう」というメッセージが含まれているように思えます。
【85点】鮫を使ったスリラー「ロストバケーション」の評価と感想:まとめ
“シチュエーションスリラーを見終えた後に「自分も気を付けよう」と思える”
そういう心境に至ることが出来るホラーこそ至高です。
ロストバケーションは間違いなくその類いの映画です。
長くなってしまいましたが、映画の総評をまとめると
「ラストで少し主人公が最強になり過ぎるけど、機転、ギミックを活かし逆転するカタルシスと恐怖を感じられる良い映画だった」
です。
余談:かもめが可愛い
ナンシーがいる岩場には、同じくサメに襲われたせいで怪我をして飛べなくなったかもめがいます。
そいつがとにかく可愛い。
本当に可愛い。
途中でナンシーがかもめを治療しますが、その後にかもめがナンシーの指に噛みつきます。
「随分乱暴なありがとうね」と言うナンシー。
そしてかもめを助けるため、折れたサーフボードにかもめを載せ沖に浮かばせるナンシー。
プカプカ浮かぶかもめ・・・。
可愛い・・・。
最後、ナンシーと共にかもめも助かります。
かもめは本作の癒し担当だったんですかね。
とにかく可愛かった・・・。