歴代の映画製作本数が20本という、驚異の「映画後進国“パラグアイ”」で生まれた傑作映画「7BOX」を鑑賞しました。
いつも通りネタバレ無し情報を書いた後にネタバレしていきます。
まだ未鑑賞で、「とりあえず面白いかどうかだけ知りたい」という方は、「※ここからネタバレを含みます。」という文章の直前までを目安にご覧ください。
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予告編(トレイラー)
作品情報
公開年 | 2012年 |
---|---|
原題 | 7 cajas |
上映時間 | 105分 |
製作国 | パラグアイ |
監督 | フアン・カルロス・マネグリア、タナ・シェムボリ |
脚本 | ティト・チャモロ、フアン・カルロス・マネグリア、タナ・シェムボリ |
ジャンル | サスペンス,アクション |
主要キャスト |
セルソ・フランコ ビクトル・ソサ ラリ・ゴンザレス ニコ・ガルシア |
配信サイト・媒体 |
市販DVD Amazonプライムビデオ…他 ※記事公開時の情報です |
あらすじ・みどころ
パラグアイのスラム街を舞台に、謎に包まれた7つの箱を運ぶ仕事を引き受けた少年ビクトルが、箱を狙うギャングやスリ、警察にも追われるはめになり、命懸けの逃走劇を繰り広げる。
魅力
①物語に無理が無くしっかりと練り込まれている
②登場人物が全員魅力的で、視覚的な特徴も強いので判別しやすい
③ユニークなカメラワークが多く視覚的に飽きない
④狭い市場での逃亡シーンはスピード感があって良い
⑤個人的にこういうラストは大好き
気になる点
・BGMは好みだが、ちょっと同じ曲を多用し過ぎてる気がする
【ネタバレ無し】感想
主人公の「ビクトル」はどうやら映画スターに憧れている様子。
そんな中、ビクトルの姉がどこかで借りてきた携帯電話でビクトルの事を撮影する。
姉が撮った動画を再生したビクトルは、まるで自分がアクターのように見えたようでその携帯電話が欲しくなる。
しかし「60万グアラニ(約11,055円)」だと知りあきらめる。
直後、見知らぬ男から運び屋としての仕事を受けるビクトル。
中身を聞かされないまま、大金の為に「7つの箱」を運び続けるビクトルだが、事態はどんどん悪い方へ・・・。
複数人のキャラクター目線で話が進むところは、ガイリッチー監督の「スナッチ(2000)」に似ています。
いわゆる「グランドホテル形式」とか「群像劇」という表現技法です。
各々のキャラクターはどんどんまずい事態に巻き込まれていきますが、その「ヤバさ」がコミカルな雰囲気で伝わる部分もあり、「コメディ部分」「シリアス部分」「サスペンス部分」の住み分けが上手く、観ていて全く飽きませんでした。
良い点:物語に無理が無くしっかりと練り込まれている
本作は展開が多く、そして一つ一つの展開に引き延ばしが観られない為、かなりテンポ良く話が進みます。
また「金の無い運び屋が怪しい箱を届ける」という使い古されたプロットである為、良く言えばストーリーについていけなくなることもありません。
狭い市場を舞台に様々な人間摩擦が起きますが、主人公を恨む人物の心理描写や設定等も充実しており、どのキャラにもしっかり感情移入しながら鑑賞できます。
一部「暗号の認識違い」というアホみたいなミスを犯すキャラも居ますが、こういう映画にはアホなミスが似合うので全然OK。
良い点:登場人物が全員魅力的で、視覚的にも特徴が強いので判別しやすい
この手の作品はたいてい登場人物が全員個性的です。
本作は結構登場人物が多いのですが、一人ひとりの見た目、設定が凄く個性的で分かりやすい。
例えば肉屋で働いているキャラは、仕事以外でもずっとその時の「血の付いたシェフ帽」を被り続けています。
おかげで登場人物は「アホっぽい」ようにも見えて愛着が湧くし、キャラ整理がしやすくなります。
良い点:ユニークなカメラワークが多く視覚的に飽きない
カメラワークがそこそこ頑張ってます。
動くオブジェクトに固定して、そのオブジェクト目線で役者を映す手法が多かったですね。
悪い点:BGMは好みだが、ちょっと同じ曲を多用し過ぎてる気がする
少しダサいですが、耳に残る良い音楽が使われています。
しかし回数が多く少しクドイ。
もう少しレパートリーが欲しいところ。
【ネタバレ有り】感想
※ここからネタバレを含みます。
ラストまでのザックリストーリー
箱の中身が「女性のバラバラ死体」だと知ってしまったビクトルは、恐怖に戦きそのまま荷物を放置し走り出す。
丁度警察が居たのでそのまま密告しようとゆっくり近付く。
歩きながらふと横を見たビクトルは、その店に設置されているたくさんのモニターに自分が写っている事に気付く。
その店ではカメラや携帯電話がディスプレイされており、それらのカメラに自分が写っている事に嬉しくなったビクトル。
改めてカメラ機能付き携帯電話が欲しくなったビクトルは、大金を得る為にこの仕事を完遂することを決意する。
しかしビクトルは指定の場所へちゃんと荷物を届けるも、「ダリオ」からは報酬を得られずに追い払われてしまう。
警察に尾行されていた事に気付くビクトル。
ビクトルは思い切って警察の元へ荷物を持って近づくが、それに気付いたダリオは説得しようとビクトルに話しかける。
しかしこっそり隠れていた「ネルソン」により「ダリオ」は銃で撃たれてしまう。
その荷物をずっと狙い続けてきた「ネルソン」は、その取り巻き達と一緒にビクトルを捕まえる。
慌ててビクトルの元に駆け寄る警官たち。
警官の一人はネルソンにより撃たれるが、もう一人の警官がネルソンに照準を合わせる。
しかしネルソンはビクトルを人質として盾に。
そして散らばった「荷物」を足で開封するネルソン。
ネルソンはこの荷物を「25万ドルの大金」だと思い込んでいたので、箱からこぼれた「女性の死体」を見て驚愕する。
その一瞬の隙を突きネルソンを射殺する警官。
ネルソンと一緒に倒れたビクトルは、頭を打ち気絶してしまう。
病院で目を覚ましたビクトル。
市場で発生した一連の射殺事件でテレビは持ち切り。
そんな中、「ある一般人が携帯電話で撮影した事件映像」が流れる。
その映像では、銃殺されるネルソンと共にビクトルも映っていた。
自分の映像が全国に流れたことで気分を良くしたビクトルのニヤケ顔で終了。
キレイにまとまったラスト
ビクトルの目的は「大金を得る事」でしたが、それはそもそも「携帯電話を買いたいから」でした。
そして携帯電話が欲しい理由は、元を辿れば「テレビスターになりたい」でした。
ビクトルはテレビに出演出来たことで本来の目的を達成できました。
ミッションは失敗に終わったし大金も得られなかったけれど、当初の願いが叶った素晴らしいラストだと思います。
僕はこの手の「別アプローチで解決するラスト」が好きですが、中には「本筋と全く関係ない無理やりなハッピーエンド」があったりします。
そういうのは苦手です。
例えば「ミッションには失敗したけどキレイな人とくっつけたのでOK」みたいな。
もちろん序盤か中盤辺りで伏線的なのがあれば許せますが、最後に唐突に登場した情報で解決されるラストは不服です。
しかし本作は、最序盤で既に「ビクトルは役者になりたがっている」という描写がありました。
しかもそれも「俺は役者になりたい!」というセリフではなくリアクションのみで。
細かいところですが、人物の心理描写をセリフではなく挙動描写で表すところも好感が持てました。
そんなわけで、意外なアプローチでしっかりと片付けた本作は後味も良い。
評価・まとめ
80点
練り込まれた脚本にオシャレな演出がハマっている。
人物整理もしやすい。
腑に落ちる素晴らしいラスト。
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