多重人格者に監禁された少女3人が奮闘する映画「スプリット」を鑑賞しました。
前半に感想、後半に考察系の記事を書いてます。
まだ未鑑賞で、「とりあえず面白いかどうかだけ知りたい」という方は、「※ここからネタバレを含みます。」という文章の直前までを目安にご覧ください。
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予告編(トレイラー)
作品情報
公開年 | 2017年 |
---|---|
原題 | Split |
上映時間 | 117分 |
製作国 | アメリカ |
監督 | M・ナイト・シャマラン |
脚本 | M・ナイト・シャマラン |
ジャンル | ホラー,サスペンス |
主要キャスト |
ジェームズ・マカボイ(ケビン) アニヤ・テイラー=ジョイ(ケイシー) ベティ・バックリー(フレッチャー) ヘイリー・ルー・リチャードソン(クレア) ジェシカ・スーラ(マルシア) |
配信サイト・媒体 |
市販DVD Amazonプライムビデオ…他 ※記事公開時の情報です |
あらすじ・みどころ
見知らぬ男に拉致され、密室に閉じ込められた女子高校生3人組は、監禁場所で神経質な雰囲気を漂わせた男を目にする。男が部屋から立ち去り、必死に脱出方法を思案している最中、ドアの外から男と女が会話する声を耳にした3人は助けを求めて声を上げるが、そこに現れたのは、女性の服に身を包み、女性のような口調で話す先ほどの男だった。
魅力
①少女たちの機転、適度な反撃が緊張感を加速させてる
②「ジェームズ・マカボイ」演じる「ケビン」の気迫が素晴らしい
③相変わらず、オカルトに現実味を持たせるシャマラン監督の手腕は見事
④「精神科医」との心理戦もイチイチ面白い
【ネタバレ無し】感想
「少女が監禁される映画」はたくさんあります。
そして「もし犯人が多重人格者だったら・・・」というのも、その辺のB級ホラー監督が思いつきそうなアイディアです。
でも「シックス・センス(1999)」の「M・ナイト・シャマラン」監督がそれを具現化したら、想像以上に奥が深い娯楽作品が出来上がりました。
少女たちが状況を理解するのが早いのが良かった
最初は「どこかの変質者に監禁された」程度の認識だったケイシーたち。
しかし割とすぐに「奴は多重人格者」と気付きます。
そして気付く際に「もしかしてアイツ多重人格者じゃない?」的な分かりやすい会話が無かったのも良かった。
こういう親切過ぎるセリフがあると冷めてしまうので、この辺りの説明を削ってくれたところにも好感が持てます。
とりあえずシャマラン監督の作品はどんでん返しが見所な場合も多いので、ネタバレ無し情報はここまでに抑えておきます。
【ネタバレ有り】感想
※ここからネタバレを含みます。
良い点:「ジェームズ・マカボイ」演じる「ケビン」の気迫が素晴らしい
24の人格を持つ「ケビン」ですが、作中に登場した人格は以下の6人です。※見逃した可能性あり
・デニス(冷酷で賢い。作中ほとんど彼の人格)
・パトリシア(デニスのパートナーのような立ち位置の女性)
・ヘドウィグ(9歳の子供)
・バリー(社交的なファッションデザイナー)
・ビースト(驚異的な肉体を持ったモンスター)
・ケビン・ウェンデル・クラム(主人格)
これらの人格が目まぐるしく変わる時もあり、その気迫に、鑑賞者も少女たちと同じように戸惑うことができます。
日本語吹き替えの声優「内田夕夜」さんの豹変っぷりも凄い。
めちゃくちゃ良い仕事してます。
この辺のキャストの働きぶりもそうですが、ケビンの凄みを見せつけるための演出も素晴らしいものでした。
初めて「ヘドウィグ」が登場した時の不穏なカメラワークは特に痺れた。
良い点:良い感じに「ファンタジー」を現実に落とし込んでる
本作は「ビースト」というモンスターが登場します。
しかし序盤でフレッチャー医師が語っていたように、人格が切り替わると対象者は体質まで変化することがあるそう。
ケビンには「ビースト」というモンスター級の人格が宿っています。
驚異的な肉体を持ち、垂直な壁を素手で登る本物のモンスターです。
そんな「微ファンタジー」的要素が含まれている本作ですが、鑑賞中に「いくらなんでもそれはないだろ」と思わせない理屈作りが凄く丁寧。
これがあるだけでも鑑賞中の心地良さ、ハマリ度が段違い。
余談ですが、この辺りの丁寧さは「シャマラン監督」と「スティーブン・キング」が特に優れていると思ってます。
良い点:精神科医 vs 多重人格者の心理戦も熱い
監禁された少女たちの奮闘もそうですが、「フレッチャー医師」とケビンの心理戦がロジカルでここも観ていて気持ち良い。
フレッチャー医師は、精神科医として「ケビンの行動・所作」を視認し「今の人格」を推測します。
特に監視カメラでの映像記録を基にケビンの状況を推理するシーンでは、やたらフレッチャー医師が好きになりました。
・ゴミが散らばった歩道の上を躊躇せず歩くケビン
・潔癖症の「デニス」がゴミの上を歩くはずが無い(脇役の推測)
・いや、ゴミの上を歩くなんて潔癖症に限らず誰だって嫌がる
・つまり彼は既に「別人」の演技をしている
こういう腑に落ちる推論を挿入されるだけでグイグイ引き込まれる。
最後に瀕死となった際も、監禁された少女たちの為に「名前を呼んで。“ケビン・ウェンデル・クラム”」というメモ(必殺技)を残します。
やっぱり登場人物の魅力は、「そのキャラクターの演技や性格」よりも「そのキャラクターにどんなイベントを与えるか」に依存していると再確認できました。
少なくとも僕はそう思ってます。
考察
・最後に登場した謎の男
・別作品との繋がり
・「ビースト」の本当の正体
・動物園のロケーションの意味
考察についてはこちらの記事が参考になります。
【ネタバレ有】「スプリット」感想・レビューとあらすじ徹底解説!/シャマラン監督完全復活!超心理サスペンス傑作映画! – あいむあらいぶ
やっぱり考察関係の話は、その作品に対して熱量のある人には敵いません。
上記記事はめちゃくちゃ充実しているので、腑に落ちない箇所がある方は是非読んでみてください。
ただし、意外にも「ケイシーの過去と本筋の連動」について書かれてる記事が少なかったので、ここだけ考察します。
考察①「ケイシー」の過去
「猟師」の家系に生まれたケイシーは、幼い頃から父親と叔父(父の弟)と一緒に狩りに出かけていました。
ある時、キャンプ中に叔父に連れ出され「動物ごっこをしよう」と提案されます。
すると岩陰で叔父は全裸になり、「動物は服を着ないぞ。」とケイシーにも服を脱ぐよう促します。
すぐに場面転換が入ったので何が起きたのか分かり辛かったですが、明らかにケイシーは性的虐待を受けました。
ケイシーは覚えたばかりの猟銃を叔父に向け、静かに引き金に指を掛けます。
しかし結局発砲できず、銃は叔父に取り上げられてしまいました。
そんなある日、父親は心臓病が悪化し死亡。
叔父が言うには「そういう家系なんだ」とのこと。
そのせいでケイシーは叔父に引き取られ、その後も性的虐待は続いたと見られます。
監禁された後、ケイシーは「ヘドウィグ」に「私は学校でわざと問題を起こし居残りさせられてる」と告白しました。
それはもちろん、家に帰ると叔父に虐待されるからです。
また、叔父は心臓病について「家系」と言っていましたが、叔父はケイシーを自分の物にする為、実兄に薬を盛った可能性もあります。
このように、ケイシーは抗えずに虐待を受けていたから「脅威に対して立ち向かえない」と知っていたのです。(次項で解説)
考察②序盤で最も冷静だったケイシー
監禁直後、クレアとマルシアは割と早い段階で「ヤツに一発食らわせてやろう」と提案します。
でもケイシーは唯一「無理」と突っぱねます。
これは回想シーンで登場した「伯父を撃てなかったケイシー」に繋がってます。
実際に襲われた経験のある人は分かると思いますが、人はいざという時、意外と攻撃できないものです。
クレアは「半年間空手を習ってた」と言っていましたが、その程度で歯向かえる相手ではないことと、「いざという時は攻撃できない」という事をケイシーは理解していたのです。
考察③ケイシーは虐待されていたから救われた?
そんなケイシーは叔父から虐待を受け続けていたようで、体には無数のひっかき傷のようなものがありました。
最後に「ビースト」と対峙した際、ビーストはその傷を見てケイシーへの攻撃を中断しました。
お前の心は純粋だ
喜ぶがいい
失意の者はより進化した者
喜べ
引用:「スプリット」劇中でのケビンのセリフ
フレッチャー医師に監禁少女を発見された際、「デニス(ケビンの人格)」は「彼女たちは向上心の無い連中だ」と言っています。
他にも「パトリシア(ケビンの人格)」が、マルシアに椅子でぶたれた直後の説教でこう言っていました。
だからあなた達を選んだ。
引用:「スプリット」劇中でのケビンのセリフ
この事から、ケビン達は「トラウマを抱えた者こそ優秀」という認識があったのだと推測しました。
実際にシャマラン監督の作品は「トラウマ」をキーとして採用しがち。
そしてこの「失意こそ優秀」という思想は、「ビースト」だけでなく他の人格にもあったようです。
考察④最後に警官を見つめるケイシー
「叔父さんが迎えに来たわよ」と言う婦人警官を睨むように見つめたケイシー。
何か言いたげなケイシーでしたが、何も言わずに終わりました。
さて、ケイシーは「叔父を撃ち殺せなかった」という過去があります。
そしてケイシーはビーストと対峙した際、ショットガンで応戦しました。
正に子供時代の経験とダブっています。
しかし今回はショットガンを発砲できたケイシー。
この経験により「ケイシーはトラウマを乗り越えた」と捉えることもできます。
今までは「学校でわざと問題を起こし帰りを遅らせる」程度でしか抗議できなかったケイシー。
しかし今回の経験により強くなったケイシーは、最後に婦人警官に向かい、叔父からの性的虐待を告白することが出来たかもしれません。
それを想起させるラストでした。
この辺りの裏の運び方が本当に上手い作品でした。
評価・まとめ
85点
食い入るように見れた傑作。
本作と繋がっている「アンブレイカブル」も近いうちに鑑賞してみます。
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