「あなたたちは、“ある目的”の為に生まれたのです。」
ノーベル文学賞を受賞した「カズオ・イシグロ」氏原作のヒューマンドラマ「わたしを離さないで」を鑑賞しました。
いつも通りネタバレ無し情報を書いた後にネタバレしていきます。
まだ未鑑賞で、「とりあえず面白いかどうかだけ知りたい」という方は、「※ここからネタバレを含みます。」という
文章の直前までを目安にご覧ください。
目次
予告編(トレイラー)
作品情報
公開年 | 2011年 |
---|---|
原題 | Never Let Me Go |
上映時間 | 105分 |
製作国 | イギリス・アメリカ合作 |
監督 | マーク・ロマネク |
脚本 | アレックス・ガーランド(原作者:カズオ・イシグロ) |
ジャンル | 2010年代,ドラマ,ヒューマンドラマ |
主要キャスト |
キャリー・マリガン アンドリュー・ガーフィールド キーラ・ナイトレイ シャーロット・ランプリング サリー・ホーキンス ナタリー・リシャール アンドレア・ライズボロー ドーナル・グリーソン |
配信サイト・媒体 |
市販DVD Amazonプライム…他 ※記事公開時の情報です |
あらすじ・みどころ
外界から隔絶された田園地帯に佇む寄宿学校ヘイルシャムで学ぶキャシー、ルース、トミーは、絵や詩の創作活動に励みながら、“特別な子ども”として育てられた。
魅力
①全編を通して、まるで夢を見ているかのようなノスタルジックな雰囲気が漂っている
②少年期、思春期、成人期、どの世代の役者も、とても繊細で美しい演技をしている
【ネタバレ無し】感想


僕は「約束のネバーランド」が大好きで、その作品について調べていました。
するとネットの書き込みで、「まぁネバーランドの序盤は“わたしを離さないで”のパクりだからな」とありました。
「約束のネバーランド」が「わたしを離さないで」をパクったかどうかは置いといて、単純に「作者がインスピレーションを受けた(のかもしれない)」のであれば、是非そちらの作品も観たいと思い、「わたしを離さないで」を鑑賞するに至りました。
というわけで、僕は非常にミーハーな理由で本作と出会いました。
本作は、2017年にノーベル文学賞を受賞した「カズオ・イシグロ」氏の作品ですが、ミーハーな僕は、彼の名前やその功績、本作の世間的評価やあらすじ等、何の前情報も仕入れずに鑑賞しました。
さて、本作は「キャシー」「トミー」「ルース」3人のキャラクターを
・少年期
・思春期
・成人期
の3つの世代で描いています。
「少年期」ではまだ子供たちが何も知らない分、希望的で、だからこそどこかミステリアスな展開が続きます。
しかし「思春期」以降はただただ物悲しい。
言いようの無い悲壮感が漂う。
全編通してノスタルジックな魅せ方で、彼ら「特別な存在」の運命を描いている。
涙腺こそ刺激されなかったものの、鑑賞後もしばらく“彼ら”が心に残り続けるような、そんな作品です。
一般評価は「3.4」
今まで本作の存在を知らなかったのが恥ずかしいくらい有名な作品。
原作ファンによる「雰囲気は良く再現されてる」というレビューが多いので、原作踏襲度は高い模様。
※ここからネタバレを含みます。
【ネタバレ有り】感想
悲し過ぎる「クローン」たちの人生
クローン達は、幼少期は寄宿学校で育ち、18歳前後でそれぞれ相応しい施設に割り振られます。
そしてそこで生活しつつ、“提供”を待つ。
彼らは「自分がクローンである」事を受け入れています。
「“オリジナル”に臓器を提供する為に生まれた」と知っていながら、それでも出来るだけ長生きすべく、システムの中で全うに生きているのです。
この時点で結構な絶望感があります。
しかし、本作は美しい。

トミー(アンドリュー・ガーフィールド)
ノスタルジーを感じさせる映像もそうですが、役者の繊細な演技や、クローンが自分の運命に少しだけ抗ってるような、でも受け入れてるような、そんな複雑な心境も相まって、何故か「ウットリ」してしまう。
「ウットリ」というワードを使うのも凄く変だけど、「美しい映像」を通して「儚い命」を見てると、そう思えてくる。
本作は決して「矯正施設からの脱出」系では無い
「ショーシャンクの空に(映画)」
「約束のネバーランド(漫画・アニメ)」
「プリズン・ブレイク(海外ドラマ)」
「カイジ(地下労働編)(漫画・アニメ)」
「アイランド(映画)」
など、メディア媒体にかかわらず、僕はとにかく「矯正施設からの脱出もの」が大好きです。
そしてこの手の「脱出マニア」にとって最初に訪れる至高の瞬間とは、彼らが“ここは裏でヤバイことをやってる”と気付くシーン。
その要素は、上記作品全てにあるわけではありませんが、やっぱり主人公たちが決起する瞬間は感動します。
「約束のネバーランド」はそこのカタルシスを重要視しているようで、非常にドラマチックに「脱走」を描いていました。
また、「わたしを離さないで」に登場する「臓器提供用クローン」という要素は、「アイランド(2007)」と同じですが、そちらは派手なアクションを駆使して見事脱出を果たしました。
しかし本作は、「あなた方は臓器提供用のクローンです」と知ってからも、誰もその施設からは脱走しようとはしません。
それについては後で考察しますが、これにより「脱走」のカタルシスはゼロでした。
本作は全く「脱走」の要素は登場しません。(だから評価が変わるとかそういう話ではない)
個人的に好きなシーン
・ルーシー先生が「あなた達はある目的の為に生まれました」と悲しそうに吐露する
・トミーがキャシーにカセットテープをプレゼントする
・キャシーが「自分のオリジナルが居るかもしれない」とポルノ誌を“楽しそう”にめくる
・「キャシー」「トミー」「ルース」の3人が、初めて外の世界をドライブする
考察:なぜ彼らは逃げ出さないのか?

鑑賞中ずっと気になっていたのが「何故誰も逃げないのか?」ということ。
映画を見ていると、どうも「少年期」は「クローンであること」を知らずに育てられているようです。
「柵の外側は危険」という意識を刷り込まれているせいで、彼らは外に怯えています。
しかしそれは、「ルーシー先生」の意を決した吐露により嘘だと気付けたはずです。
でも、「ルーシー先生の吐露」の前後で、彼らの行動に変化は見られません。
また、仮にルーシー先生が居なかったとしても、思春期の彼らが「提供」の話をしている事を考えると、どこかで「あなた方はクローンです」という説明があったことになります。
でも彼らは決して逃げ出しません。
誰かが作り上げたシステムの中で、静かに「提供」の時を待つ。
この話も少年期に限定すれば理解は出来ます。
「外は危険」という刷り込みにより、寄宿学校から出たがらない。
だから外の世界のことを良く知らない。
この辺りは洗脳で可能です。(実際にそういう虐待例もある)
しかし思春期以降、彼らは外出を許されており、かつ「オリジナル探し」の旅に出るシーンもあり、「あの話は嘘だった」と理解しているようでした。
それでも彼らは逃げず、ちゃんと提供の義務を果たします。
この事については原作にそれっぽい描写があるようですが、僕は良く理解できませんでした。
また、Yahoo知恵袋では「ICチップで管理されてるから逃げられないと分かっている」という回答もありました。
しかしもし自分が彼らの立場だったら、「どうせ“オリジナルの為の命”であり続けるなら、どんなに困難でも逃げ出すだろう」と考えます。
と、色々見たり考えたりした中で僕が一番納得できる理由は「“提供者”であり続けるよう、精神的にプログラムされている」というもの。
彼らはマインドコントロールか何かによって、「提供者として人生を全うしなければならない」とインプットされている。
だから彼らは「任期を伸ばす」ことでしか抗おうとしないし、「自分がクローンであること」に対して何も言わない。
これも動機付けとして弱い気がしますが、もし彼らが逃げない(それっぽい)理由を知っている方がいたら、是非ともコメント等で教えてください。
【感想】「わたしを離さないで」の魅力2個。臓器提供の為だけの命…:評価・まとめ
75点
余談:
本作の脚本には、「28日後」「サンシャイン2057」等に携わった「アレックス・ガーランド」の名前があります。
アレックスは映画監督として「エクス・マキナ」や「アナイアレーション」も製作しており、こちらも大変オススメです↓





