ワンナウツとは知る人ぞ知る野球漫画だが、野球を軸とした漫画では無く、「渡久地東亜(とくちとうあ)」という究極の頭脳派勝負師の活躍を描いた物語だと僕は思っている。
だから内容としては、ライアーゲーム、カイジ、アカギが似ている。
そもそもワンナウツの作者である甲斐谷忍先生も「ワンナウツは野球版のアカギ」と言っている。(アカギは麻雀を題材にしている)
甲斐谷先生はワンナウツの後にライアーゲームを書いており、この事からも元々頭脳プレイ系の作風を得意としていることが解る。
さて、当記事はワンナウツの主人公である「渡久地東亜」に焦点を当てた記事だ。
※追記:アニメ版しか鑑賞しておらず、「渡久地のキャラがかっこいい」というミーハーな理由だけで当記事を書きましたが、「ワンナウツ」というワードでの自然検索でかなり上位に来ました。原作未見なので、深い部分での粗が目立つ記事かと思います。何か間違い等あれば、是非ご指摘お願いします。
目次
ワンナウツの魅力
「ワンナウツ」とは、そもそも渡久地がまだ球団に入る前にやっていた賭け野球のこと。
ピッチャーがボールを投げ、それをバッターが打てたらバッターの勝利。
打てずに三振したらピッチャーの勝利という単純なルール。
そのワンナウツ勝負で、渡久地はピッチャーとして500戦無敗というアリエナイ記録を保持している。
そしてそれはスポーツ漫画でありがちな「主人公が類まれな才能を持っているから」などではなく、渡久地にギャンブラーの素質が備わっており、理詰めでバッターの行動を汲み取るからである。
これは後に渡久地がプロ球団に入ってからも活かされる。
いや、プロ球団に入ってからこそ活かされる素質である。
僕は野球のルールを「打って走る」という程度しか知らない。
それでもワンナウツが最高に面白いのは、「渡久地が理詰めで勝利を手にする」からである。
それは正しく、ライアーゲームで勝利する秋山深一そのものである。
もちろん現実では運やスキルアップの要素も絡むのでここまで”渡久地最強”にはならないが、漫画ではそういう「運」の要素は極力排除すべきだと思っている。
だからこそ読者に分かりやすく、かつ理詰めでの逆転によるカタルシスを感じられるワンナウツは最高に面白いギャンブル漫画と言える。
ルール度外視の究極ゲーム「反則合戦」
渡久地が所属している「リカオンズ」という球団 vs 強力バッターが3人も在籍している「マリナーズ」との試合。
最強ピッチャーである渡久地と、マリナーズに所属する「高見いつき」ら3人の強力バッターとの駆け引きが軸になりそうだが、その辺りの描写は薄い。
それどころか渡久地は”ある理由”から「勝負をむやみやたらに引き伸ばす」ことを考えて行動している。
勝負を引き延ばすことで、渡久地にとってかなり大きなメリットがあるからだ。
それに気づいた高見は、なんとしても試合を終わらせようとする。
その為にはお互い反則をいとわない。
渡久地はわざとボールやボークを繰り返す。
それに対し高見らは「バッターボックスから足をはみ出す」とか、「バットを振った後に3塁に向かって走る」など、通常のプロ選手がするはずもない反則行為を犯す。
渡久地はそれを見て「そうそうそれでいい。これはいかにレベルの高い反則をするかの勝負だ」みたいなことを言う。
最終的にはこれは渡久地の「撒き餌」のようなもので、「試合を引き延ばし無効試合にすることが渡久地の目的」と考えていた高見らマリナーズのミスリードにより、完膚なきまでに渡久地の勝利になる。
究極のイカサマバトル「対ブルーマーズ」
本作の最後を飾る試合。
最後らしい究極の駆け引き、心理戦が描かれる。
というのも、ブルーマーズが「サイン盗み」「インチキナックルボール」というイカサマをしているからだ。
渡久地はこのイカサマを見破った後、
「俺はこういうの全然嫌いじゃないよ。」と言っている。
さすがギャンブラー。
実際渡久地は、このイカサマを逆手に取り逆転勝利を収める。
渡久地東亜というキャラクター
さてそろそろ渡久地について語っていきたい。
渡久地はもともと野球自体には全く興味の無い男だったように思える。
沖縄に住んでいた頃はアメリカ軍とワンナウツ勝負をしたり、たまに裏カジノらしきところでギャンブルをしたりという描写はあるが、それ以外は一切描かれていない。
どこでごはんを食べているか、両親、普段何をしているかなど読者にはさっぱりだ。
ただ分かるのは、「渡久地は究極のキレ物」ということだろうか。
それに加え感情を一切持たない。
故にサイコパス感が半端ない。
渡久地は「ワンナウツ契約」といいう特殊な給与形態となっており、ピッチングに失敗して失点すると年俸がガクっと下がり、下手すれば借金になるというシステムである。
並みの人間ならプレッシャーで死んでしまいそうな場面でも、渡久地は顔色ひとつ変えずに仕事に専念する。
正しくサイコパスのそれである。
※サイコパス=犯罪者という印象がありますが、サイコパス性というのは「実業者」や「成功者」にも見られます。当記事では渡久地を「成功型サイコパス」として敬う意味で使っています。
サイコパス程「実業家」に向いている?「成功型サイコパス」の特徴 | ぱっかんブログ
唯一渡久地の性格が垣間見えるシーン
渡久地はリカオンズでの活躍で、年俸ウン十億というアリエナイ額を稼ぐ。
そのせいでオーナーからは嫌われるのだが、そのオーナーの
「渡久地は最近スポーツカーを買ったらしいな。」と言うセリフがあり、それと同時に渡久地がスポーツカーから降りてたばこを吸いながら夜景を観るシーンが映される。
これが唯一「渡久地がプライベートで何を欲しているか」を映しているシーンじゃなかろうか。
故に僕はこのシーンが大好きだ。
ワンナウツを観た人でもこのシーンが好きな人は多いのではなかろうか。
一切の人格、性格やプライベートを表さないミステリアスな渡久地の唯一の個人的なシーン。
「へー、渡久地も”スポーツカーに乗りたい”っていう欲求があったんだ」となんとなく思ってしまった。
他にも「練習をサボってパチンコに行く」などの描写もあるが、これは「暇つぶし」でやってるだけに見えるので、そこまで渡久地の意志が反映されてる行動とは思えない。
意外と真面目で練習熱心な渡久地東亜
渡久地が努力する描写は完全に削られているが、賭け野球で無敗記録を保持するだけの渡久地が、実際のプロ球団でここまで活躍するためにある程度の努力をしてきたのは想像に容易い。
ファーストの動きを練習した
野球のルールはよくわからないが、諸事情で渡久地はファーストの守備も任される。
最初はエラーを繰り返し、それに付け込んだ敵チームが「アイツはヘタだから渡久地のところへボールを飛ばせ」と指示を出すが、それこそ渡久地の狙いで、渡久地は十分に一塁守備は出来ていた。
渡久地が一塁守備の指示を出された時、リカオンズのメンバーは「あいつはピッチャーの経験しかない」と嘆いていたので、このことから渡久地が一塁守備の練習を一人でやっていたことが分かる。
「一人でやれるのか?」という疑問があるので、もしくはチーム内の誰も知らない知り合いに頼んで練習してたのかもしれないし、もともと野球自体の経験があったのかもしれないが、その辺りの描写が無いので想像するしかない。
個人的には、「あの渡久地でもちゃんと練習した」と思った方が魅力的に見える。
ちゃんとバッターの練習もした
「インチキナックル」のイカサマを逆手に取って逆転するために、渡久地はある程度のバッティングスキルを磨いたと思われる。
この時渡久地は、どうしても敵投手である「ウィリアムス」にインチキナックルを投げさせたかった。
しかし、本当にピッチャー経験しか無い状態なら、プロピッチャーが投げるものなら「普通のボール」ですらまともに打てないはずである。
渡久地はそれを”わざとファールにする”ようなバッティングはできる。
「インチキナックルを沈めるために多少のバッティングスキルは必要だな」と考え、さすがに少しは練習したはずである。
「野球規則」を叩き込んでいる
野球の細かいルールが書かれた「野球規則」というものがあるらしい。
まぁどのスポーツでもルールはあるだろうが、本当に細かい端くれのルールまで全ての選手が覚えているかと言われればきっとそうではないだろう。
しかし渡久地は、「反則合戦」をするための反則の定義や、そして「試合放棄」した場合にどうなるかなど、細かいルールを熟知していた。
更に、「隠し玉」という方法も知っていた。
この事から、ちゃんと野球規則を頭に叩き込んでいたことが伺える。
「児島との約束を守る」勝負に忠実
最序盤で天才打者「児島」とワンナウツ勝負をし、児島の「自らデッドボールになる」という破天荒な荒業で敗北した渡久地。
実際ルール上は「渡久地の勝利」という認識でも問題無かったようだが、「ルールの正しい認識を児島に説明していなかった」という理由から渡久地は敗北を認める。
さすが男気溢れる勝負師の渡久地。
しかも負けたら腕を折られるという代償が付く。
か細い腕を児島に差し出し、「さぁ、折れよ。」と呟く。
しかし児島は渡久地の手を取り、「”お前の手をもらう”というのはそういう意味じゃない。リカオンズに来てチームを優勝させてくれという意味だ。プロに来い。」と告白。
これを機に、おそらく嫌々ながらも渡久地はリカオンズに入団する。
そして本作の最終話で、渡久地はこう言う。
「俺はワンナウツ勝負で児島に負けた。俺は腕を折られる覚悟をしたが、児島は”チームを優勝させてくれ”とほざきやがった。敗者は勝者に従わなければならない。これが勝負の鉄則、絶対だ。ま、優勝できるかどうかはお前ら次第だがな。」
児島含めリカオンズのチーム全員は渡久地の圧倒的なパワーに心酔していた。
特に児島は渡久地に対し相当な感謝の気持ちを抱いていたはずだ。
そんな状況で、「まだ約束を果たせていない」という渡久地の男気溢れる一言。
児島は目を震わせながら、去り行く渡久地を見つめる。
めちゃくちゃ熱いラストだが、渡久地は本当に児島との約束を果たすためだけにここまで球団に貢献しているのだろうか?
もちろん、彩川(さいかわ)オーナーとの契約上、自分がピッチャーとして活躍し続けなければいけないが、それとチームの優勝とはまた別の話である。
そして「チームの優勝」という約束も、児島からすればもはや反故にされても文句は言えないくらいチームに貢献してくれている。
そんな渡久地が、「チームが優勝するまで最後まで付き合ってやる」と言ってくれているのだ。
児島からすれば涙が出る程嬉しかったに違いない。
そして渡久地自身、「リカオンズに所属してチームで戦う事」に僅かながら楽しさを感じていたのではと思う。
渡久地の弱点は「弱点が無いところ」
作者の甲斐谷先生も言っていたが、渡久地には人間らしいところが一切ない。
勝負においては有利に働くが、実際にキャラクターとしての人気はどうだろうか。
もしかしたら「人間味が無さすぎる」という理由から、そこまで人気のキャラでは無いかもしれない。
渡久地の対戦相手のほとんどは「おっさん」
ワンナウツの特徴として、勝負の対象がほとんどおっさんということが挙げられる。
というのも、渡久地が知恵比べをする相手は選手ではなく「監督」だからである。
ワンナウツは野球漫画でありながら、プレイヤー同士の実力のぶつかり合いはほとんど描かれない。
飽くまで戦略や駆け引きを楽しむ漫画だ。
その為必然的にチームの司令塔である「監督」と、ピッチャー渡久地との闘いになる。
また、給与のシステム上自分の球団オーナーである彩川オーナーとも対立している。
これもまたおっさんである。
渡久地の年齢は公開されていないが、あるチームメンバーから「まだ二十歳そこそこなのに勝負のなんたるかを語るお前が憎らしかった」と言われるシーンがあるので、このことから20代前半ということが分かる。
児島 vs 渡久地 の熱い“決着”
改めてアニメを見返して思ったことを書く。
児島は渡久地とのワンナウツ勝負にて、わざと球にぶつかりデッドボールにした。
この行為はどことなく「負け惜しみ」のような、言ってしまえば“ダサイ”行為で、児島が立ち上がった後「今のはデッドボールで無効だから、もう一球放れ」とでも言いそうな気がした。
しかし児島は、半ニヤケで「俺の勝ちだろ、渡久地。」と言う。
僕は改めてこのシーンを見てめちゃくちゃ感動した。
この時の児島はこんな表情をしていたのか、と。
「わざとデッドボールにする」というダサイ行為をし、そのうえで悪びれる様子もなく、得意げな表情で「俺の勝ちだろ?」と言う。
これはまさしく、児島が「渡久地の土俵」で勝負しているからこそ出来る行為である。
今までの児島なら「野球をコケにするな!くそが!」と言って終わり。
しかし児島は渡久地にコテンパンにされたことで、プロとしてのプライドや、自分の弱さなどを見つめなおすことが出来た。
だからこそ、「卑怯なテクニック」を正々堂々と使えるようになった。
そういう気持ちが無いと、あの状況で児島がドヤ顔なんて出来るはずが無い。
「誰が折るなんて言ったよ。俺はお前の右腕をもらうと言ったんだ。プロに来い…!!」
【One Outs(ワンナウツ)感想】主に「渡久地東亜」という男について:まとめ
一見すると人間味は一切ないが、深読みすると少し人間らしいところが垣間見える渡久地東亜。
この渡久地東亜の戦略の全ては、理解するとカタルシスを感じるものばかりなので、興味のある方はぜひ読んで頂きたい。
作者は
とぐちをとくちと読み間違えたのか
敢えて濁点を取ったのか
まだ気になる。
この先ずっと気になる
以上沖縄県民より。
今更ながらコメントするけど、渡久地は後半、とうとう王者マリナーズの選手たちにその球の癖を見切られてしまい
バカスカ打たれるんだけど、そのときに「今日は俺は負ける。だが負けるなら思い切りだ。何かをつかむまで俺をマウンドに立たせてくれ。お前らの判断がもう無理だと思ったなら合図を出せ。そしたらマウンドを降りる」みたいなことをいったんだけど
リカオンズの選手は全員彼を信じて、ひたすら撃たれまくる渡久地を静かに見守りながらも惨敗するという一戦がある。
そして球場からその日は去るときに児島に「お前を信じた俺たちはどうだった?」といわれて「不覚にも居心地がいいと思ってしまった」といってるところがすごいよかった。
渡久地がサイコパスというのはちょっと語弊がありますね。
あれは精神疾患などではなく、渡久地という人間が持つ強靭な精神力の賜物
というだけです。サイコパスの症状を拝見しましたが似て非なる物です。
渡久地という人物は一見すると分かり難いですがちゃんと情を持っています。
そもそもあれだけの才覚があればワンナウツ契約などめんどくさい事をせずとも
もっと楽に稼げる方法があったはず。それをあそこまで児島の言いがかりにも近い
言い訳を飲んでリーグ優勝まで引き受けたのは渡久地の男気が垣間見えるシーンで
あり、彼が精神疾患を抱えた異常者でないのは明白です。
天才なのは確かですが人間的に危険なサイコパスというのは違うと思います。
彼はあくまで敵を打倒して報酬を得るという一点において人外な機知を発揮するので
あって、普段は他人に危害を加えるような冷酷な人物ではありません。誤解です。
あとレビュー見る限りアニメしかご覧になられて無いのでしょうか?
本作の最終試合はブルーマーズ戦ではなく、マリナーズ戦です。
アニメでは原作の前半部分しかアニメ化されておらず、後半部分は未だ未定です。
その後半部分を読めば、渡久地がサイコパスなどではなく、あくまで彼自身の
類稀な強靭な精神力が成せる技であり、それは精神性とは無関係なのがわかります。
危険な異常者扱いする前に原作を最後まで読破してから判断してほしかったですね。
弱点と人間味についてもちゃんとあります。
弱点に関しては「本職の野球選手ではないので基礎体力の欠如」が挙げられます。
スタミナこそ結構ありますが球速は遅く、変化球も投げられません。
もし渡久地が豪速球を投げられて変化球もマスターしてたら更にやばかったでしょう。
人間味ですが、原作の後半のあるシーンで彼は女性と一夜を共にしています。
これは本当にサイコパスに該当するキャラなら必要ないシーンだったはず。
その手の人間らしさは不要ですから。あれは作者からの渡久地は試合以外はごく普通の
兄ちゃんですというメッセージと受け取りました。
原作がある作品の場合は原作まで吟味してレビューする事をお勧めします。
ジンガ様
熱量のあるコメント本当にありがとうございます!!!
おっしゃる通り原作未見なので、原作の情報を頂けて嬉しいです!
原作はまだ続きがあったんですね!アニメ版で途中だったとは言え、かなりキレイな終わり方だったので誤解しておりました。
ご指摘ありがとうございます!
サイコパスについてですが、ジンガ様のおっしゃる通り、一般的には「精神疾患」だったり、「犯罪者予備軍(もしくは犯罪者)」という認識が多いですが、僕の認識では「サイコパスに憧れる理由」でも書いているように、「一見冷酷だけ才能を社会貢献に活かせば成功できるタイプ」と定義してます。
にしても原作では、渡久地が女性と一夜を共にする描写もあるなんてビックリです。
ジンガ様のように、自分とは比較にならない程ワンナウツが好きな人からも閲覧されるようになりましたので、ちょっとある意味責任を持って原作読破後にリライトしたいと思います!
是非とも、また何かあればご教授くださいませ!