感想を言語化しづらい傑作「きっとここが帰る場所」を鑑賞しました。
いつも通りネタバレ無し情報を書いた後にネタバレしていきます。
まだ未鑑賞で、「とりあえず面白いかどうかだけ知りたい」という方は、「※ここからネタバレを含みます。」という文章の直前までを目安にご覧ください。
目次
予告編(トレイラー)
作品情報
公開年 | 2011年 |
---|---|
原題 | This Must Be the Place |
上映時間 | 118分 |
製作国 | イタリア・フランス・アイルランド合作 |
監督 | パオロ・ソレンティーノ |
脚本 | パオロ・ソレンティーノ |
ジャンル | ロードムービー,ヒューマンドラマ |
主要キャスト |
ショーン・ペン(シャイアン) フランシス・マクドーマンド(ジェーン) ジャド・ハーシュ(モーデカイ・ミドラー) イブ・ヒューソン(メアリ) ケリー・コンドン(レイチェル) |
配信サイト・媒体 |
市販DVD Youtube…他 ※記事公開時の情報です |
あらすじ・みどころ
人気絶頂の最中に表舞台を去り、アイルランド・ダブリンの広大な邸宅で穏やかな日々を過ごしていたロックスターのシャイアンのもとに、故郷アメリカから30年以上も会っていない父親が危篤との報せが届く。飛行機嫌いなシャイアンは船でニューヨークに戻るが臨終には間に合わず、ユダヤ人だった父が元ナチス親衛隊の男を探していたことを知ると、父にかわって男を探す旅に出る。
引用:Netflix
魅力
①一つ一つの「出会い」「イベント」が魅力的なので飽きない
②「お涙頂戴」ではない何とも言えない「グッと来るシーン」が多い
③好みの問題だが、音楽が良い
気になる点
・ミステリアスな展開が多く、全体的に説明不足な感じが否めない(だがそれがいい)
【ネタバレ無し】感想
数年前に一度鑑賞し凄く泣いたのを覚えています。
最近になり ふと思い出して観たくなったので、Youtubeの有料映画枠で鑑賞しました。
内容を6割くらい忘れていたので、我ながら絶妙なタイミングでの再鑑賞だったと思います。
あらすじの通りなのですが、昔はポップスターだった主人公の「シャイアン(ショーン・ペン)」が、父親の復讐を肩代わりするというストーリーです。
「シャイアン」という素晴らしいキャラクター

シャイアンは子供のようにたどたどしく、そしてポップスターとして活躍していた頃のメイクを施していることから、周りの人からはジロジロと見られます。
ここまではトレイラーでも分かる情報ですが、僕がシャイアンに特に魅力を感じるのは「頭が良い」という点です。
「頭が良い」で済ませるとすごく薄っぺらくなってしまいそうですが、シャイアンは「ただの変な奴」ではなく、ちゃんと空気も読むし、人との会話でも捻りの効いた素晴らしいコメント力を発揮します。
やはりこの手のゆったり系ロードムービーは、ただの会話シーンでもちゃんと魅力を感じさせる事が大事だと思っているので、シャイアンのこのキャラ設定と知性は本当に素晴らしいと思いました。
また、「過去に何があったか」のユニークさも素晴らしい。
シャイアンが闇を抱えているのは序盤で分かりますが、それが何なのかは中盤で明かされます。(それについてはネタバレで語ります)
「主人公に辛い過去がある」というのは創作物として良くある設定ですが、その「闇」が在り来たりだと純粋に面白くありません。
シャイアンの闇は個性的で、他のどの創作物とも被ってないであろう新しいものです。
ちゃんと設定を練ってくれた製作陣の手腕だと思いますが、こういう「アイディア勝負」な部分でも一気に感情移入度が変わるので、個人的には凄く好印象。
音楽が良い
2011年の作品ですが、全体的に90年代作品の雰囲気を漂わせています。
そのせいか、その辺りの時代を匂わせる曲を多用しているのですが、純粋に本作の為に作られたであろう歌詞の無い音楽たちも凄く良い。
割と音楽との相性で本作の好き嫌いは別れると思います。
ちなみに本作は時代設定が説明されていません。
雰囲気や「ブラウン管テレビ」のシーンが多かったことから90年代だと思いながら鑑賞しましたが、シャイアンの家には薄型テレビが設置されていました。
薄型テレビの発売日が具体的にいつかは分かりませんが、もしかしたら2000年代に入ってからのお話かもしれません。
でもそうしたら「車輪付きバッグ」を発明した人が「数年前の88年に思いついた」と言っていたのと矛盾する
【ネタバレ有り】感想
※ここからネタバレを含みます。
良い点:「シャイアン」の「過去」の設定が秀逸
シャイアンは売れに売れたポップスターでしたが、当時の「売れる曲」である「憂鬱な曲」を連続して書き続け、その結果二人の繊細な若者を自殺させてしまいます。
どうやらこれがきっかけで音楽から離れていたようですが、中盤で感情を爆発させながらこのことを話すシャイアンに心打たれました。
更にうまい具合に序盤で「誰かの墓に花を添えて、その墓に埋葬された子の親に罵倒される」というシーンを挟んでおり、この謎がこの感情爆発シーンで同時に解決できたため、「伏線回収」の心地良さもありました。
別にサスペンスじゃなくとも、グッと来る瞬間に伏線回収を重ねることで感動が増幅します。
本作は全体的に淡々とした印象を受ける作品でしたが、要所要所にこのような盛り上がりを見せてくれたおかげで全く退屈を感じませんでした。
良い点:特徴的なサイドストーリーが多い
本作はロードムービーなので、当然ながら主人公が旅の途中色々な人と出会います。
そしてそれぞれのドラマが一つ残らず面白い。
少し前に「すべての終わり」という超絶イマイチな終末ロードムービーを観たのですが、こちらは全く面白くありませんでした。
「すべての終わり」では人と人との出会いが全くドラマチックではなく、「実話を基にしてたらなんとか観れたかも」というレベルでした。(ノンフィクションは”実話を基にしてる”という前提がある分ハードルが下がる)
そんなわけで、最近は特に「人(脇役)とのユニークな出会いと別れ」を気にする体質だったのですが、本作に登場する「車輪のおじさん」「金融関係の営業マン」「カフェスタッフ」「バンドマン(ピース・オブ・シット)」「人妻」はどれをとってもユニークで、シンプルに一つ一つのサイドストーリーが面白かった。
良い点:カメラワークが好みだった
本作はとにかくカメラが動きます。
老人の肌がドアップで映るシーンも多いし、意味深なズームも多用されます。
特に流れるようなカメラワークが多く、そのおかげか一人ひとりのキャラクターがえらく重厚に見えました。
良い点:どうオチが付いたのか分からないのに、ラストが素晴らしい

自分の父親に屈辱を与えた「アロイス・ランゲ」をついに見つけたシャイアン。
シャイアンは、95歳のランゲを全裸で外に放り出します。
雪原に全裸で立ち尽くす老人。
この絵は衝撃的で、記憶に鮮明に残ります。
しかしここはクライマックスではありません。
本作はラストとクライマックスが同時に訪れます。
最後、旅を通して「何か」が変わったシャイアンは、今までのロック風メイクを辞め、通常の中年男性のような恰好で家に帰ります。
シャイアンが作中で最後に会ったのは、「メアリーの母」です。
メアリーの母は息子「トニー」が家出し以来病んでるようで、家の窓からずっと通りを眺め、いつかその通りからトニーが帰ってくることを信じています。
そして映画のラストで、その通りからはシャイアンが現れるのです。
最初はトニーと勘違いし喜ぶメアリー母でしたが、その姿がシャイアンだと気付くと一度憎悪に満ちたような表情に変わります。
しかし最後にはシャイアンと共に笑顔になり、そしてエンドロールに突入。
「トニー」も未解決な事象なので腑に落ちない部分の一つなんですが、本作にはそういう「意味不明」な部分がいくつかあります。
僕は基本的にそういう「腑に落ちない部分」は考察記事を読んだりして解決しないと気が済まないタチなのですが、本作の「未解決部分」はスルーしたうえで何故か全力で感動できます。
というかむしろ考えちゃいけないような気さえしています。
シャイアンが旅に出て、
荒野のドライブ中に窓を開け風を感じたり、たまたま出会った人妻の子供の為に嫌々ギターを弾いたり、復讐の果てに全裸の老人を雪原に放り出したり、父親との蟠りが自分の幻想だと気付いたり、夕暮れの空港でタバコを吸って大人になったり・・・
そういう伝説的なシーンがたくさん観れただけで満足なんです。
しかもそれらには全て「シャイアンの過去・苦悩」が含まれているから、より感情移入できました。
評価・まとめ

85点
本当に良作です。
個人的にですが、本作で「シャイアン」を演じた「ショーン・ペン」の監督作、「イントゥ・ザ・ワイルド」に似た何かを感じました。
こちらも傑作です。
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